戦国時代の領主、井伊直虎が通説の女性ではなく、別人の男性であることを示す史料が見つかったと、井伊家ゆかりの遺品を所蔵する井伊美術館(京都市)の井伊達夫館長が発表した。直虎は戦国大名、今川氏の家来の息子だったとしている。学説の主流は、井伊家の一人娘で尼僧の次郎法師が直虎を名乗り領主になったとの見方で、新説は論議を呼びそうだ。
井伊谷(現在の浜松市北区)を治めた直虎は2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の主人公で、謎が多い生涯への関心は高い。今回明らかになったのは、江戸初期の1640年に井伊家の家老が聞き書きして残した書を、1735年に家老の子孫がまとめ直した写本。井伊館長が約50年前に滋賀県彦根市の骨董品店で入手した史料の中にあり、読み返して発見したという。
それによると、戦国大名の今川氏真(うじざね)が「家来の関口氏経(うじつね)の息子を井伊次郎とし、井伊家の領地を与えた」との意が複数箇所に記されている。戦乱で井伊家の跡取り候補が次々と亡くなり、領内で争いごとが頻発したため、今川氏が新領主を送り込んだという。
京都女子大学の母利美和教授(近世史)は「史料は井伊家の筆頭家老の木俣氏がまとめた。他の木俣氏の記録書と筆跡が同じで信ぴょう性が高い」と語る。
これに対し、直虎に関する本を今年発刊した静岡大学の小和田哲男名誉教授(戦国史)は「井伊家の跡取りが代々『次郎』を名乗っていた。娘の次郎法師がいた同時期に、次郎を名乗る別の男性がいたとは考えられない」と反論。新説は今後、検証が求められそうだ。
NHKは「ドラマはあくまでフィクションであり、影響はないと考えている」(広報局)としている。